バスケット分析とは、顧客が1回の購買で買う商品の組み合わせを分析し、売上向上機会を発見する手法。顧客には「欲しい商品をまとめて見つけやすく」、企業には「客単価向上とクロスセル機会の最大化」をもたらす。
バーでの物語
金曜夜のカウンター。化粧品ECのあやが、マスターに相談していた。
あや「最近、化粧品って相互関係が強いんですよ。化粧水を買う人って、ほぼ必ず乳液も買うんです。でも、データを見ても有効活用できてなくて…」
マスター「ああ、それだ。お前さんが見てるのは『商品の組み合わせパターン』だろ。その購買の流れを把握してないから、お客の欲しいタイミングを逃してる」
あや「え、でも買ってもらってますよね…」
マスター「そうじゃない。買ってくれてる人が『一緒に買うはずだった商品』を買ってないケースが、どんだけあるか把握できてないんだ。バスケット分析ってのは、そこを掘り出す作業だ」
マスターはカウンターのグラスを拭きながら続ける。
マスター「例えば、化粧水を買う人の80%が乳液も買ってるなら、その20%は何で買わなかったのか。品ぞろえ?価格?それとも、提案忘れ?」
あや「あ…提案がなかったのかも。化粧水だけで完結させちゃってた」
マスター「そういうことだ。バスケットの中身を見ると、顧客が本来買いたかった商品が見える。その商品を次のメールで提案したり、レコメンドで出したり、バンドル販売にしたり…工夫の余地がある」
隣の席の食品ECのそうが、つい割り込む。
そう「うちも同じです。米を買う人って…」
マスター「塩とか、ふりかけとか、一緒に買う率が高いわけだろ」
そう「ですが『米のまとめ買い』の人と『米+おかずセット』の人で、購買パターンが全然違うんですよ」
マスター「その『パターン』を見つけること自体が、バスケット分析の価値だ。顧客セグメントごとに買う組み合わせが違うってことは、提案の仕方も変わるってことだ」
アウトドア用品のりつもうなずいている。
りつ「テント買う人は、寝袋も買いますね。シーズンで見ると、春は初心者向けセット、秋は上級者向けの装備…組み合わせが全然違う」
マスター「季節でセグメントが変わるってのは重要だ。春の初心者と、秋の経験者では『一緒に勧めるべき商品』が違う。バスケット分析で、その季節ごとの『正解パターン』を見つけりゃ、提案が刺さるようになる」
マスターはバーの奥の手書きメモを取り出す。
マスター「これ、ある食品企業の数字だ。米と味噌を一緒に買う率は75%。でも提案なしで、その75%の顧客に『ふりかけ』を見せてなかった。提案後、購買率が32%上がった。つまり、バスケットに隠れてた25%の新規購買機会があったってことだ」
あやが目を丸くする。
あや「25%…化粧品なら、かなり大きいです」
マスター「そういうことだ。バスケット分析は『見落としてた売上を発見する』作業。それを提案に活かすか、バンドルに活かすか、推薦メールに活かすかは、お前さんたちの工夫次第だ」
ありがちな失敗
多くの企業がやりがちなのは、『商品の組み合わせ』をデータで見つけたものの、それを『なぜ一緒に買われるのか』という理由まで掘り下げないことだ。
例えば、ある化粧品企業が「化粧水と美容液の同時購買率が60%」という数字を見つけた。その数字だけを見て、推薦欄に「化粧水を買う人には美容液を勧めよう」と機械的に提案を仕掛けた。ところが、実際には化粧水の『テクスチャーがさっぱり系』を選んだ顧客と『しっとり系』を選んだ顧客では、推薦すべき美容液が全く違っていたのだ。結果、クリックすら減ってしまった——これが失敗パターンだ。バスケット分析で見つけた組み合わせは、必ず『セグメント』『季節』『顧客段階』で再分類する必要がある。
同時購買率 = (A商品とB商品を同時に買った顧客数 ÷ A商品を買った顧客数) × 100
例)化粧水を買った顧客 1,000名
その中で乳液も買った顧客 800名
同時購買率 = 80%
顧客単価向上への貢献度 = (B商品の平均売上 × 追加購買率) / 初回購買客数
例)乳液の平均単価 3,000円
バスケット分析で見つけた組み合わせ提案により、新たに50名が購買
追加売上 = 3,000円 × 50名 = 150,000円
【業界別・パターン例】
化粧品:化粧水→乳液・美容液(成分系統で分岐)
食品:米→味噌・塩・ふりかけ(購買習慣で分岐)
サプリ:マルチビタミン→睡眠系・美容系(年代で分岐)
アウトドア:テント→寝袋・マット(シーズン・レベルで分岐)
📋 本日の処方箋
-
【なぜやるか】顧客が「本来は買いたかった商品」を見逃しているから /
【どうやるか】過去3ヶ月の購買データから「一緒に買われた商品TOP5」を抽出。そのうち「現在の提案に含まれていない組み合わせ」を特定する -
【なぜやるか】同じ商品の組み合わせでも、顧客セグメント・季節・段階で最適な提案が変わるから /
【どうやるか】見つけた組み合わせを「新規顧客向け」「リピート層向け」「季節別」に再分類。セグメントごとに異なるメール・レコメンドを設計する -
【なぜやるか】バスケット分析は『発見』であり、それを『実行』に落とさないと意味がないから /
【どうやるか】見つけた組み合わせを「バンドル販売」「推薦メール」「カート追加提案」「商品ページの関連商品欄」のいずれかで施策化。A/Bテストで効果測定する -
【なぜやるか】『売れてる組み合わせ』と『売れるはずだった組み合わせ』は別だから /
【どうやるか】同時購買率だけでなく「初回購買で買われなかった商品」も分析。その理由を(認知不足か、価格か、情報不足か)顧客アンケートや行動ログで掘り下げる -
【なぜやるか】季節・トレンド・在庫状況で『組み合わせの正解』は常に変わるから /
【どうやるか】バスケット分析を『1回の調査』で終わらせず、月1回のローテーションで更新。最新の購買パターンを常に反映させる
業種を超えた応用例
これは食品だけの話じゃない。サプリメントなら「ビタミンCを買った人は、3ヶ月後に睡眠系サプリを買う傾向がある」という時間差的な組み合わせが見つかるし、ファッションECなら「春のコート購買層は、夏にTシャツを買わず、秋まで待つ」という季節ずれの組み合わせ。ペットフードなら「大型犬用フードを買う顧客は、数ヶ月後に関節ケア商品を購買する」という用途別の組み合わせが隠れている。バスケット分析の本質は『顧客が何を、どの順序で、なぜ買うのか』という購買行動の流れを見える化すること。その流れさえ掴めば、どの業界でも「欲しい提案が欲しいタイミングで」できるようになる。

