CRMにAIを搭載する前に、一度立ち止まって考えたこと

Forresterが2025年に発表したCRM評価レポートを読んでいて、整理されているなと思った。

CRMに統合されるAIを「予測AI・生成AI・エージェントAI」の3種類に分類している。予測AIは購買タイミングやLTVを予測する。生成AIはメール文面やコンテンツを生成する。エージェントAIはワークフローを自律的に実行するが、現時点では限定的な用途にとどまるとされている。

整理としては正しい。ただ、これは金融サービス向けの評価だ。通販・D2Cの文脈で読むと、もうひとつ前提を押さえておく必要があると感じた。


私はCRMツール「MOTENASU」の開発・販売に携わっている。当然ながら、AIをどこまで搭載するかは常に議論になっている。機能として提供できるものは多い。でも「できる」と「すべき」は別の話。その議論をするたびに、自分の中に戻ってくる問いがある。

通販・D2CのCRMには、他の業種と決定的に違う点がある。

最終ゴールは「お客様にメッセージを届ける」こと。

メール、LINE、DM、SMS。形は違っても、CRMの施策は必ずお客様の手元に届く。そこにハルシネーション——AIが事実と異なる情報を生成する誤り——が入り込む可能性がある。

誤った商品名。存在しないキャンペーン。間違った購入履歴。

それがお客様に届いた瞬間、信頼は崩れる。


先日、業界の勉強会でAI活用について議論する機会があった。

ユーザー(CRMを使う側)の声として印象的だったのが、ナショナルブランドの担当者たちの多くが「お客様の目に触れるものにはAIを使わない」というトーンだったことだ。表向きは慎重な姿勢。でも実務の話を聞くと、裏側では結構使っている。この二重構造が、今の通販業界の実態に近いと思う。

広告・クリエイティブの話になるが、最近ある化粧品会社が生成AIで制作したPR動画を公開し、既存アニメ作品との類似性を指摘されて炎上・撤去という事態になった。外部専門家を交えたリーガルチェックを重ねた上での公開だったが、「既存作品の独自性や文化的背景への敬意を欠き、ファンの心情への配慮が不足していた」として謝罪に至っている(2026年5月)。

法的にクリアでも、お客様の感情は動く。

CRMの文脈に引き直すと、これは他人事ではない。AIが生成したメール文面が「なんか機械的だな」「私のことをわかってない」と感じさせた瞬間、関係性は少し冷める。その積み重ねが、静かな離脱につながる。


一方で、AIの活用が進んでいるサービスも出てきている。

通販カート大手のEC-Forceは、コマース事業に特化したAIエージェント「ecforce AI」を提供している。受注データの分析・施策提案・メールテンプレート生成・キャンペーンページ制作まで、データ参照から実行まで一気通貫でサポートする設計になっている。実際に「ページ制作の工数が50%削減された」という声もある。すごくいいサービスだと思う。

ポイントは、分析・提案・制作補助という領域に特化している点だ。お客様に直接届く「送信ボタンを押す手前」までを担っている。最終的な判断と送信は人間が行う設計になっている。


では、CRMにAIを使うなという話か。そうは思っていない。

開発者目線で言えば、世界中のツールが「AIを使った自動化」の開発をガンガン進めている。CRMも例外ではない。この流れに乗らなければ、プロダクトとして置いていかれる。それは明白だ。

進化はすさまじいし、使いこなせるかどうかで生産性に差がつく時代になっている。MOTENASUの開発においても、AI活用の可能性は引き続き研究していく。ただ今の自分の立場は、正確性が担保できる業務から段階的に導入するというものだ。

人の手が入ること。そしてダブルチェックがあること。

この2つがある限り、AIは強力な補助になる。でもその2つを省いた瞬間に、通販CRMでのAI活用はリスクに変わる。

AIがどれだけ進化しても、お客様に届くものは効率より誠実さが先だ。この順番は変わらないと思っている。

参考資料

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