マルチタグとは|顧客を多面的に理解して、施策の確度を上げる

CRM基礎用語

マルチタグとは、1人の顧客に対して複数のタグを付与する仕組みのこと。購買履歴や行動パターン、属性情報など、顧客の異なる側面を同時に記録することで、より正確なセグメント配信と施策精度を実現する。顧客には「自分の欲しい時期に欲しい情報」を、企業には「施策の応答率向上」をもたらす。

バーで聞いた話

金曜夜、カウンターにはアパレルEC担当のめぐみが浮かない表情で座っていた。

「マスター、タグ付けって難しいですね。ウチ、『秋冬シーズンに購入』と『カジュアルが好き』と『メールをよく開く』とか、いろいろなタグを持ってるんですが…つけ方が統一されてなくて。あるお客さんは秋冬タグだけついてるし、別のお客さんは全部ついてるし」

マスターはグラスを磨きながら聞いていた。

「それで、何が困ってるんだ?」

「セグメント配信したいんですよ。秋冬買った人で、カジュアル好きで、メール開く率高い…その人たちに秋物の新作案内を送りたい。でも、タグがバラバラだから、該当者が10人かもしれないし100人かもしれない。配信精度が読めないんです」

マスターは頷いた。

「なるほど。つまり、1人のお客さんを『1つの視点だけ』で見てるってわけか。でも顧客って、実際には複数の側面を持ってるだろ?」

「複数の側面?」

「そうだ。お前さんが言ってたことをまとめると、『購買パターン』『好みの属性』『エンゲージメント』の3つの情報がある。1人の顧客は、この3つを同時に持ってる。それなのに、タグが完全についてない人もいれば、部分的な人もいる。これが『マルチタグが機能してない』状態だ」

めぐみは身を乗り出した。

「じゃあ、どうするんですか?」

全顧客に、複数のタグを必ず付与する仕組みにする。秋冬を買った人なら『季節タグ:秋冬』『スタイル:カジュアル』『エンゲージメント:メール開封率高』みたいにね。そうすると、セグメント配信のフィルターが利く。『秋冬 × カジュアル × メール開封率高』という3軸で顧客を抽出できるようになる」

「あ、つまり…タグの掛け算で、より細かい顧客像が見えるってことですね」

「そのとおり。たった1つのタグだけ見て『秋冬買った人』として一括送信するのと、複数タグで『秋冬買ったうえに、カジュアルで、メールもよく見る人』に絞って送信するのでは、反応率が全然違う。マルチタグは、顧客理解の解像度を上げるツールだと思えばいい」

マスターはカウンターに小さなメモ帳を置いた。

「たとえば、お前さんのサイト。何人ぐらい顧客がいる?」

「月間アクティブユーザーで2万人くらいです」

「そのうち、『秋冬購入タグ』は何人についてる?」

「あ…統計は取ってないんですが、恐らく30%くらい…」

「じゃあ6000人だ。その6000人に対して『秋冬セール案内』を一括送信してるわけか」

「はい、そうです」

「開封率は?」

「20%程度ですね」

マスターはメモを書いた。

「その6000人の中に、『カジュアル好き × メール開封率高い』という2つのタグを持ってる人は、何人いると思う?」

「えーと、50%くらいでしょうか…」

「つまり3000人。その3000人にだけ秋冬セール案内を送ったら、開封率はどうなると思う?」

めぐみは黙考した。

「あ…もっと高くなると思います。『カジュアル好き』に絞ってるから、『フォーマルが好きな人』を外したし、『メール開封率高い』人だから反応しやすい層ですから」

「そうだ。マルチタグでフィルターをかければ、ターゲットの質が上がる。質が上がれば、同じ6000人への一括送信より、3000人への精密送信の方が、反応率は高くなる可能性が高い。もちろん、送信数は半分になるけど、反応率が1.5倍になれば、全体の効果は変わる」

「あ、だから『施策の応答率向上』なんですね」

マスターはニッと笑った。

「そういうこと。そしてもう1つ。マルチタグが揃ってると、データの質も上がる」

「データの質?」

「そうだ。タグが完全じゃないと、『秋冬購入したけど、スタイルタグがない顧客』『カジュアル好きだけど、購買タグがない顧客』みたいなノイズが混じる。でもマルチタグが統一されていれば、各顧客の情報が揃ってるから、分析もセグメントも正確になる。つまり、マルチタグの充実度は、CRM全体の精度を左右する

「なるほど…。でも、そうすると、タグの種類が増えるんじゃないですか?」

「そうだな。だからタグ設計が大事なんだ。『何を軸にセグメント配信するのか』を先に決めておく。秋冬のアパレルなら、『季節』『スタイル』『エンゲージメント』『価格帯』『購買頻度』みたいに5〜8個の軸を決めて、全顧客に対してこの軸でタグをつける。そうすると、マルチタグが『顧客理解の共通言語』になるんだ」

めぐみはメモを取り始めた。

「マスター、1つ質問いいですか。新規顧客にはどうするんですか?初回購入の情報だけでは、タグをつけられないような…」

「いい質問だ。新規の時点では、購買データしかない。でも、時間とともにタグは増えていく。2回目の購入で『リピーター』タグがつく。メール開封を3回見ると『メール開封率高』タグがつく。こうやって、顧客の行動データが溜まるにつれて、マルチタグも豊かになっていくんだ」

「あ、つまり、新規の時点では『タグが少ない』のは正常で、それが『タグが増える』ことが、顧客の価値が高まってきた証だってことですね」

「そういうことだ。だから、新規顧客には『まだタグが少ないから汎用メールを送る』で構わない。でも半年たって、複数のタグが揃った顧客には、『そのお客さんだけ』の精密なセグメント配信をする。その差が、LTVの差になるんだ」

マスターはグラスを置いた。

「昔、メルマガの時代の話なんだが、似た失敗をした企業が多かったんだ。『購買したから…』と1つのタグだけで、全員に同じメルマガを送ってた。だから開封率が15%程度。でも、『購買 × メール開く × 単価高め』という3つのタグで絞った層に送ると、30%を超えることもあった。マルチタグはその思想の進化形だ」

めぐみは深く頷いた。

よくある失敗

マスターが重ねたグラスを磨きながら、ある失敗を思い出していた。

「そういえば、ウチに相談に来た化粧品の会社があってな。『タグは100個ある』と自慢していたんだ。『成分別』『肌質別』『季節別』『価格帯別』って、あらゆる軸で細分化していた。ところが、実際に顧客を見ると、タグがほとんどついていない。タグ設計は完璧だったが、『どの顧客にどのタグを付けるのか』というルールが曖昧だったんだ。結果、データ入力者によってタグが違ったり、つかなかったり。タグの数が多いほど、この『運用のブレ』が大きくなるんだよ」

めぐみは眉をひそめた。

「あ、それはウチも…。タグを20個つくったんですが、営業と企画で『どのタグをつけるか』が違うんです」

「それだ。だからマルチタグは『数』じゃなくて『精度』が命なんだ。少なくても、100%正確なタグの方が、たくさんあるのに曖昧なタグより、よほど使える

本日の処方箋

  1. 【なぜやるか】1人の顧客を1つの視点だけで見ると、セグメント精度が落ちてLTVが伸びないから / 【どうやるか】現在のタグ数を数え、『購買パターン』『属性』『エンゲージメント』の3軸で、全顧客に複数タグが付与されるルールを作る
  2. 【なぜやるか】タグが完全でない顧客が混じると、分析もセグメントも正確性が落ちるから / 【どうやるか】『このタグをつける人』『つけない人』の判定基準を、チーム全体で統一文書化し、運用を標準化する
  3. 【なぜやるか】マルチタグで絞った層に送信する方が、反応率が上がり、ロイが改善するから / 【どうやるか】秋冬セール案内で、『季節 × スタイル × エンゲージメント』の3軸フィルターを試し、開封率を測定する
  4. 【なぜやるか】新規顧客はタグが少なくて当然だが、時間とともに増えることが『顧客価値の成長』を意味するから / 【どうやるか】新規6ヶ月後の顧客に対して、タグ数が増えている層と増えていない層で、リピート率を比較分析する
  5. 【なぜやるか】複雑すぎるタグ設計は、逆に運用精度を落とすから / 【どうやるか】5〜8個の軸に絞ったマルチタグ体系を決め、『つけない選択肢もあり』とすることで、曖昧さをなくす

業種を超えた応用例

この考え方は、アパレルだけの話ではない。サプリメントなら『習慣化度 × 体感効果有無 × メール開封率』のマルチタグで、『リピート確度の高い層』に継続案内を送ることができるし、ペットフード企業なら『犬種 × 年齢層 × 購買金額 × リピート頻度』でタグを組み合わせて、『ライフステージに合った新商品提案』ができる。食品ECなら『季節別購買 × 単価帯 × 配送方法』で、季節商材の精度を上げられる。つまり、マルチタグはどんな業種でも、『顧客の多面性』を捉える手段なのだ。

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