初回購入(F1)から2回目購入(F2)に至った顧客の比率のこと。一見「再購入の健全性を示す指標」に見えるが、初回商品・到達期間・測定開始日の定義次第で、同じ数字でも事業成長の良し悪しは全く逆になる。
りつがいつもより疲れた顔で来た。週明けの月曜日、まだ山から帰ってきた気分が抜けていない感じだ。
「F2転換率、結局どう見たらいいんです?」
カウンターにスマホを置いて、スプレッドシートを広げた。
「何か起きたのか」
「いえ、上司から『再購入が弱い』って言われたんで、数字を出したら、F2転換率が28%だったんですよ。で、業界平均が20〜35%らしいから中くらいってことで……」
言いながら、手を止めた。
「でもそれで説明すると、『なら改善できる余地あるだろ』と言われる。で、『何を施策にするか』を聞かれて、答えられないんです」
マスターはグラスを磨きながら、ちょっと間を取った。
「28%という数字だけで、何が分かってる?」
「あ…。100人買った人のうち28人が2回目買ってくれた、ってことですよね」
「その28人が、F1からF2までどのくらい時間かかってる?」
スマホを見直す。
「えーと、データはあるんですけど…。中央値だと、平均で90日くらい…」
「そっか。それだけあると?」
りつが考え込む。
「うち、アウトドア用品なんで、シーズンが分かれるじゃないですか。春に買った人と、秋に買った人で、次の購入まで……あ」
「そこだ」
マスターが置いたのは、古めの手書きメモ。
「アウトドアって、季節で買うものが変わるんです。春秋は新しいギアを試したくなるし、冬は防寒を買い足す。でも90日間隔だと、秋に買った人は冬のシーズンに再購入するけど、春に買った人は……」
「その時期に何を買うんだ」
「えーと、アウトドアって季節がいいから、単価は上がるんですけど、必要な装備はそんなに足りない。あ、ビギナーなら別ですけど。うちの顧客って、結構ステップアップ層が多くて」
マスターが身を乗り出した。
「ステップアップ層なら、いきなり2回目を買うわけではなく、最初のギアで何度も使って、『これじゃ足りない』と思ってから買う。それが90日で終わるのか」
「あ…。そっか。春に初心者用テントを買った人なら、6月の雨の季節には使わないし、まだ必要性を感じてない。でも秋に買った人は、冬山やスキーキャンプが控えてるから、機能が足りないって気づきやすい」
そこで違う角度から。
「で、その28%って、全顧客なのか。初回商品で分けてないのか」
りつが止まった。
「あ…。全体の数字です。初回商品別には、見てないですね」
「そこ。その28%というのが、テント買った人で分けると20%、ウェア買った人で40%、バックパック買った人で…みたいなことになってるはずだ」
「あ。初回商品によって、F2までの必要性が違う」
「そうだ。テントって年単位で買い替えない。でもウェアなら季節ごと、シーズン前に新しいものが欲しくなる」
マスターはメモに追加した。
「あのね。F2転換率28%という数字は、正しい。でもそれが『悪いのか良いのか』『何を改善するのか』は、この数字だけでは分からない。なぜなら、初回商品がテントばかりなら、F2転換率が20%でも『正常』だからだ」
りつが整理し始めた。
「28%という数字は『単なる通過点』で、本当は『何が買われてるか』『それぞれのカテゴリでは何%なのか』『到達期間は季節とマッチしてるか』…こういうのを見ないと、施策が立たない」
「そこまで見て初めて『F2転換率を改善しよう』という話になる」
りつが携帯をいじり始めた。
「初回商品別に出し直してみます。テント、ウェア、バックパック、靴…あ、でも靴は消耗品だから周期が短い。ウェアは季節品だから春秋で買い替える。テントは…本当に1年以上かかる」
「その時点で、同じ施策で全部を扱うことの無理が見える」
「だから、『F2転換率が28%だから、メール配信を増やそう』みたいなのは…」
「効かない可能性が高い。テント買った人に『今すぐ新しいテント』なんて届いても、ノイズでしかない」
りつの顔が変わった。
「あ…。うち、そのパターンかもしれません。去年、上司の指示で『新規3ヶ月以内にセール案内』を全員にやったんですけど、効果がなくて。『メールの精度が悪い』って言われたんです。でも実は、初回商品がテント買いの人にテント案内してても、意味ないわけだ」
「そんなところか。テント買いなら、今度のテント購入は1年以上先。その間に届く案内は、別のカテゴリで設計しないと」
りつが少し肩の力を抜いた。
「で、その28%、測定開始日はいつ?」
「あ…。『1月1日から12月31日の間に初回購入した人』で計算してます」
「春の花見シーズンと、秋の紅葉シーズン。全然違うタイミングが混ざってる」
「そっか。春に買った人が6月に再購入するのと、秋に買った人が1月に再購入するのが、同じ『90日後』として扱われてる」
「そこで季節ファクターを見落とすと、『春F1はなぜ弱いのか』という本来の問題が浮かばない」
マスターが静かに言った。
「F2転換率というのは、CRMの指標の中では『良い悪い』が最も判断しづらい数字のひとつだ。同じ28%でも、商品構成と季節性で全然違う。それを見ずに『改善しろ』と言われたら、何を改善したらいいのか、そりゃ分からないよ」
りつが頷いた。
「初回商品で分ける。到達期間を見る。シーズンと照合する。その上で『テント買い向けには何をするか』『ウェア買い向けには何をするか』を分ける。そうすると…」
「初めて『施策の入口』が見える」
よくある質問
Q:F2転換率が20%と30%だったら、30%の方が良い?
初回商品の構成が同じ場合のみ。テント比率が多い月と、ウェア比率が多い月では、同じ25%でも事業健全性が逆になることもある。数字だけでは判断できない。
Q:F2転換率の業界平均20〜35%というのは参考にならない?
参考にはなるが、使い方次第だ。「うちは平均以上だから大丈夫」と安心してはいけない。初回商品別・季節別に細分化した上で、初めて平均値と比較する意味がある。
Q:F2転換率を改善するには、やっぱりメール配信を増やすべき?
初回商品によって異なる。高周期商品(テント年1回)ならメール頻度より『タイミング』が重要。低周期商品(ウェア季節ごと)なら『配信頻度と内容の切り替え』が重要。施策も初回商品で分ける必要がある。

