離脱定義とは|顧客の本当の離脱をいつまでと決めるか

CRM用語集
離脱定義とは

顧客がもう戻ってこない状態をいつまでと決めるかの判断基準のこと。購入間隔や利用頻度から、商材ごとに設定する期限を指す。この定義がズレると、継続率・LTV・休眠施策の全判断が狂う。


ゆうきが金曜夜に来た。いつもより早い時間だ。

「結局、定着する人って最初で決まりますよね」

マスターは笑った。その前置きが来ると、たいてい何か腑に落ちていない話だ。

「オンボーディング後、30日以内に利用が止まる顧客が全体の35%いるんです。その人たちって、多分もう帰ってこないと思うんですよ。だから、そこを改善すれば解約率も下がるはずなんです」

「で、今はどう数えてる」

「チャーン率ですね。上司が見てるのは。契約から解約までの日数の分布で」

マスターはグラスを拭きながら続けた。

「その30日で止まる人たちが、本当にもう戻ってこないのか、試したことある」

ゆうきが止まった。

「試す、ですか」

「そう。30日以降、何かアクションを起こしてみて、戻ってくる人の割合を見る。もし10%戻ってくるなら、その人たちは『離脱』じゃなくて『休止』だ。離脱定義と現実がズレてる」

ゆうきはノートを出した。こういう時の反応が速い。

「じゃあ、本当の離脱はいつなんですか」

「それが、商材によって全然違う。健康アプリなら初期1週間で離脱する人が多いけど、中には3ヶ月使い続けないと習慣化しない人もいる。サプリなら体感まで3ヶ月かかるから、60日で『離脱』と判定したら、実は飲み続けてた人を離脱者扱いにしてしまう」

「あ、それって……」

「そ。施策を打つ相手が変わるんだ。本当は『休止』の人に『失敗した』と思い込んで、新規獲得に力を入れたりする。でも実は、その人たちはまだ商品を使ってる最中だった」

マスターはカウンターでメモを書き始めた。

・購入周期が45日の商材で、60日離脱判定を使う → 購入待機中の顧客を「離脱」と誤認
・利用開始から3ヶ月間は利用率が上がり続ける商材で、30日非利用を「離脱」と判定 → オンボーディング中の顧客に施策を打つ無駄が発生
・実績から80%到達日(全体の80%が購入・利用する期間)を測定し、そこから1.5〜2.0倍で補正するのが一般的

「だからね、離脱定義を決めるときは、頭の中だけじゃなくて、『期限内に購入した人』と『期限後に購入した人』を分けて見ないと」

ゆうきが頷いた。

「期限後購入……」

「60日で離脱と決めたなら、61日以降に買った人がいるかどうか見る。もしそこに5%いたら、その人たちは『休止中』だった。期限を90日に伸ばすべき信号だ」

「あ、そっか。チャーン率だけ見てると、その人たちは『戻ってこない』に見えるけど、実は戻ってきてるんだ」

マスターは少し身を乗り出した。

「今、君のところの解約前の平均契約期間は」

「えっと、中央値で8ヶ月ですね」

「じゃあ、その8ヶ月の間に、『一度も利用しなかった期間』があるか見たことある」

ゆうきは黙った。

「多くのSaaS企業がやってるのが、契約から解約までの全期間を『継続期間』と見なすことだ。でも実際には、1ヶ月使ったら2ヶ月使わなくて、3ヶ月目にまた使い始めるような顧客がいる。その『2ヶ月使わなかった期間』が何日続いたら『解約予備軍』と判定するか、その定義がない企業が多い」

「それ……オンボーディングの定着とは別の話ですね」

「そ。初期定着と、その先の継続は別問題。君が『最初で決まる』と思ってるのは、初期定着の話。でも本当に見るべきは、その先の『利用間隔の変化』だ」

ゆうきが少し沈んだ。

「結局、今の離脱定義って、経営側が『いつ諦めるか』を決めてるだけで、顧客が『いつ止める』かとズレてる」

「その通り。だから、自分たちの商材で『どのくらい無利用が続いたら戻ってこない』のか、実績から補正する必要がある。SaaSなら、全契約者の『最長無利用日数』の分布を見て、中央値から1.5倍くらいを区切りにする。そこを超えたら『離脱予備軍』じゃなくて『実質離脱』と判定し直す」

マスターはグラスを置いた。

「今のチャーン率の数字、その新しい離脱定義で再計算してみろ。きっと全然違う見え方になるぞ」

よくある質問

Q:30日以内に利用が止まる人を『離脱』と判定するのは間違っているということですか?

正確には、「それが本当の離脱か確認していない」というのが問題です。30日以降にアクションを起こしてみて、戻ってくる顧客がいれば、その人たちは「休止」であり「離脱」ではありません。離脱定義は実績から補正しないと、施策の対象を誤ります。

Q:SaaS企業とEC通販では、離脱定義の考え方が違いますか?

根本は同じですが、見る指標が異なります。ECは「購入周期」を基準に、SaaSは「利用頻度と無利用期間」を基準に設定します。ただし両方とも、実績から80%到達日や中央値を測定し、それを1.5〜2.0倍で補正するプロセスは共通です。

Q:オンボーディング後の離脱と、その先の利用低下は別に考えるべきですか?

その通りです。初期30日の定着と、その後の継続は異なる現象です。初期離脱を減らすことと、利用間隔の延伸を防ぐことは、施策も基準も変わります。両者を一つの「チャーン率」で見ると、本来打つべき施策が隠れます。

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