契約を終了した顧客の特性・行動パターン・時期を調べ、「誰が、どのタイミングで、なぜ辞めるのか」の構造を理解するプロセス。単なる「全体の解約率の数字」ではなく、その背景にある顧客セグメントごとの離脱パターンを見ることが重要。
めぐみが来店したのは、いつもより少し疲れた顔をしていた。
「この季節は母の日と父の日の区間なんですけど…」
マスターはグラスを拭きながら聞いている。
「4月に母の日ギフトを買ってくれた方の、5月以降のリピート率を見てみたら、想像以上に低かったんです。販売数自体は4月で大きく増えるのに、その後がすごく静かで…」
「解約、ですか」
「解約というか、単純に買わなくなるというか。『お客様がいなくなる』という感覚なんです。全体の解約率で見ると8%なんですけど…」
マスターは少し眉をひそめた。
「全体の8%で、改善方法を決めようとしてるんですか」
「あ、そういう見方もあるんですね。どういう意味ですか…?」
「母の日は、4月買い。そこからの流出を見てるわけですね。でも全体の解約率は、新規から既客まで全部混ざってる。母の日で急増した顧客と、元々いた常客の離脱は、原因が違う可能性が高い」
めぐみは、ハッとした顔をした。
「あ、勘違いしてました。母の日の『一時的に増えた人たち』が辞めるパターンと、『昔からの顧客』が辞めるパターンは、別々に見るべきってことですか」
「そう。全体の解約率を下げたいなら、どの層の離脱を止めるかで、アクションが全然違う」
めぐみはコーヒーを一口飲んだ。
「母の日は贈答用なんです。だから4月に急増する。でも、もらった側が『自分のお気に入り』になって、リピートするのって、実際には少ないんですよね。お母さんにプレゼント、という『一度の満足』で終わる。その後『自分たちで食べるから買う』まで行くのって、難しくて」
「それが、離脱に見える、と」
「はい。でも全体の解約率は8%だから、『問題ないレベル』だと思ってました。ただ、4月に3倍に増えたお客様が、5月には6割減になるのって、正常ですか…?」
マスターはメモを取り出した。
「4月購入者100人いたら、5月に何人買ってくれてますか」
「えっと…大体40人ですね」
「それが5月末で、30人、6月末で20人…みたいな流れですか。それとも、5月には40人で、そこからフラットですか」
めぐみは、少し考えた。
「5月40人で、そこからはほぼ変わらない感じです。つまり、4月新規の60人は、5月で『もう買わない』になって、その後は…」
「安定してる。つまり、1回目の購入から2回目の購入の間で、6割が脱落する。それが『解約』じゃなくて『リピート未購入』という形に見えてるんですね」
「多くの食品ギフト会社の場合、季節イベントごとに新規が大量に来る。その時点では『顧客』じゃなくて『1回限りの購入者』に近い。母の日明けに『自分たちで食べるから買う』という行動が起きないと、次の季節イベント(お中元、お歳暮)まで『非アクティブ』に見える。それを解約率で数えてるから、数字が大きく見える」
「それって…どう対応するんですか」
「そこからが難しい。解約率分析で見るべきは、実は3つの層。1つは、母の日みたいなイベント買い。これは『常時購入層ではない』から、F2到達率で見るべき。2つ目は、昔からの常客。この層の離脱は、原因がハッキリしてることが多い。3つ目は、新規から既客に転換した層。この層の離脱が一番大事」
めぐみは、ノートに書き始めていた。
「つまり、全体の解約率『8%』というのは…」
「その3つの層を混ぜた平均値。だから、それで判断すると、施策がズレる。母の日の新規の6割脱落は『F2未購入』の問題だから、解約対策じゃなくて『2回目購入への誘導』の問題になる」
「あ。そっか。その人たち、まだ『顧客』じゃなかったんだ」
マスターは少し笑った。
「顧客化するまでの間に離脱するのか、顧客になった後に離脱するのか。同じ『購買がない状態』でも、見方が全く違う。前者は『新規購入の施策』で改善する。後者は『既客維持』で改善する。解約率分析は、その層をちゃんと分けて見ることから始まる」
めぐみは頷いている。
「全体の解約率で『8%だから大丈夫』ではなくて、『どの層の誰が、いつ脱落してるか』を見ないと…」
「そう。その中で『本来は顧客化するはずだった人が脱落してる』のか、『既に顧客だった人が辞める』のか。理由が違えば、施策も違う」
めぐみはコーヒーを飲み終わった。
「でも難しいですね。母の日で3倍になった人の中から、『顧客化する人』『しない人』を見分けるって」
「見分けるんじゃなくて、購買パターンで分ける。最初の購入から90日以内に2回目の購入があれば、顧客化の兆候。それがない人は『単発層』。その2つを分けてから、解約率を見る。そうしないと、センサーが反応しない」
めぐみはそっと頷いた。
数字メモ
母の日購入者100人 → 5月リピート40人 → 6月以降はほぼフラット(20人)
この場合、実際の「解約」(既客の離脱)は20人ではなく、「顧客化しなかった60人」と「既客離脱」を分けて判断する必要がある。顧客化する(初回から90日以内に2回目購入)する層とそうでない層の割合を見ると、本当の解約率が見える。
よくある質問
Q:全体の解約率が8%だと、何が見えなくなるんですか?
A:季節イベント時の新規購入者が、顧客化しないまま非アクティブになるパターンが、本当の「解約」(既客の離脱)に混ざってしまう。母の日で増えた人の6割が買わなくなるのと、昔からの常客が辞めるのは、同じ「解約」でも原因が全く違う。
Q:F2未購入と解約の違いは何ですか?
A:F2未購入は「まだ顧客になっていない段階での脱落」。解約は「顧客になった後の離脱」。見分ける基準は、初回購入から2回目購入までの行動があるかどうか。時間経過だけでは判定できない。
Q:どうやって層を分けるんですか?
A:初回購入日から90日以内に2回目購入があった人と、なかった人で分ける。その上で、各層の「購買がなくなった人」の割合を個別に見ると、本当の離脱パターンが見える。

