顧客が前回購入から次の購入までの間隔(購買周期)を把握して、いつ・どの層が動くのかを予測するための分析手法。季節変動や商材の特性に左右されやすく、平均値だけで判断すると施策のタイミングを大きく外す。
りつは月曜日の来店時、いつもより沈んでいた。キャンプから戻った話ではなく、データの話だった。
「季節変動が大きいんですよ。春と秋のピークは分かるんですけど、夏冬の購買周期がどうなってるのか。去年比で秋の数字が下がってるから、『何か施策打て』って言われて……えーと。データは見てるんですけど、施策に落とせなくて」
マスターはカウンターでグラスを拭きながら、問い返した。
「購買周期、どう計算してるの」
「全顧客の平均購買間隔ですね。45日とかそんなもんです。それで、45日ごとに『そろそろ買ってもいい時期ですよ』みたいなメール打ってる」
「全顧客で45日」
「ですね。季節ごとにズレると思うんですけど、フィルタかけられないし。結局、平均値で動かしちゃってます」
マスターは少し身を乗り出した。
「45日の平均値ってのは、ざっくり誰と誰が平均化されてる」
「あ。あ、そっか。春の人と秋の人が混ざってるから……」
「そこ。春秋ピークと冬夏閑散の周期が丸ごと混ざってる平均値で、全員に45日のメール打つと、誰に対しても『早すぎたり遅すぎたり』になる」
りつは顔を上げた。
「でも、季節ごとに分けるなら、春ピークの人と秋ピークの人で購買周期が違うんですよね。同じ『春が動く客』でも、テント買った人と消耗品買った人では周期が全然違う」
「そこ。『購買周期分析』って一言で済まされるけど、複数の決定要因が重なってる。季節と、カテゴリと、顧客の経験度と。全部が45日に集約されちゃってる」
マスターはメモを取り出した。
春ピーク・ロープ購入(消耗品・毎月):周期30日
秋ピーク・靴購入(前回秋・次回春):周期180日
秋ピーク・軍手購入(消耗品・毎月):周期30日
全顧客平均:45日
↓
誰にも当てはまらない平均値で配信
「見ての通り。テントみたいな本格装備は半年スパン。靴も同じ。でも消耗品は毎月か2ヶ月ごと。中央値を見ると、むしろ消耗品客が多いから、平均はさらに下がる可能性もある」
「あ、だから秋に数字落ちたんですかね。春に『消耗品周期の45日で打ってた人たちが、秋も45日で来るはず』って期待してたけど、実は『本装備の人たちが戻ってくる時期が秋』だったから、タイミングがズレた」
「そういうこと。春は消耗品で回る顧客、秋は大型装備で回る顧客、別の人口構成。同じシーズンなのに、動く理由が違う」
りつは少し考えた後、別の質問が出た。
「えーと、でも購買周期ってって、その人の周期で見るんじゃなくて?前回いつ買った人が、だいたい何日後に戻ってくるか」
「そう。F1(初回購入)から次の購入までを見るとまた違う。ビギナーは装備を一式揃えたいから、初回から2週間で戻ってくる人も多い。でも2回目以降は、季節に影響される。周期分析は『購入発生日』と『購入種類』と『顧客歴』の三つを一緒に見ないと、本当の周期は見えない」
「その三つって、全部レポートに入ってるんですけど、別々に見てた。『全体の周期は45日、ビギナーは20日、リピーターは60日』みたいに」
「それは『観測』してるだけ。観測値を施策に使うなら、『F1の人に20日で何を打つのか』『60日の人に、その間に何が起きてるのか』までセットで判断する必要がある」
りつは沈黙した。少し考えて、ぼそっと漏らした。
「ビギナーは最初の1ヶ月で装備一式揃えてから、その後は季節待ちだから、20日の周期って実は『初回後の集中購買』で、本当のリピート周期ではないのか……」
マスターは頷いた。
「その認識なら、F1群の20日と、F2以降の客の60日は、全く別の意味。F1に『20日で次の買い替え促す』メール打つのは間違ってない。ただそれはリピート促進ではなく、『初期装備の完成促進』。F2以降の60日に同じメール打つと、ノイズになる」
「ああ。結局、季節ピークだけでなく、『この人は今どのステージにいるのか』で周期の見方が変わるってこと」
「そこ。購買周期分析は見えやすいメトリクスだから、『45日で全員配信』みたいに単純化しやすい。でも現場で効きやすい施策にするには、周期の背景にある『理由の違い』を見た方が手っ取り早い」
りつはカウンターに肘をついた。
「秋に数字落ちたのは、もしかして春に買った消耗品の人たちに、45日で秋も提案してたから、『季節ピークと関係ないタイミング』で配信してたんですね」
「それ。秋ピークは本装備の人たちが半年ぶりに戻ってくる季節。でも君のメールは『消耗品周期の45日』で動いてた。秋の本当の動きに、メールのタイミングが当たってない」
「データは見てたのに……」
「データを見てるのと、施策に落とすのは別。購買周期分析ってのは、『いつ配信するか』を決めるためのものじゃなくて、『何を配信するのか』『誰に配信するのか』を決めるための情報。周期だけ知ってても、背景の理由を無視すると、タイミングの外し方が大きくなる」
よくある質問
Q:平均購買周期が45日の場合、全員に45日で配信するのはなぜダメなのか。
平均45日の中には、20日で動く人と180日で動く人が混在しているから。同じ周期数でも、その理由が違う人たちに同じタイミングで配信すると、一部は早すぎて、一部は遅すぎる。特にアウトドア用品のように季節性とカテゴリ差が大きい場合、平均値だけで動かすと秋春と冬夏で効果が大きく変わる。
Q:購買周期分析をする時に、必ず見ておくべきは何か。
中央値と分布。平均値だけでなく、「50%の顧客が何日で購入するか」と「周期のばらつき方」を確認しないと、外れ値に引っ張られた平均を信じることになる。アウトドア用品なら、カテゴリごと・季節ごと・顧客歴ごとに分けて分布を見るべき。
Q:ビギナーの周期が短いのは、本当のリピート周期ではないってどういう意味か。
初回購入後、テントやザックなど本格装備を揃えるまでの集中購買期間と、その後の季節待ちでのリピート購買は別の現象だということ。ビギナーが20日で戻ってくるのは「定期的に必要だから」ではなく「最初の準備期間だから」。この理由の違いを見落とすと、施策が空回りする。

