離脱定義とは|顧客の購買周期に基づく判定基準

CRM用語集
離脱定義とは

顧客が購入を辞めたと判断する日数や条件のこと。企業側が「このユーザーはもう買わない」と判定する瞬間を決めることであり、言い換えると有効な顧客から除外する基準を指します。

つよしが来たのはいつもより早い時間だった。金曜の昼下がり。

「マスターに相談があるんですけど」

顔色がまた落ちている。定期購入の解約が止まらないという話は、もう3ヶ月目に入っていた。

「また数字がですか」

「いや、その前の話なんです。ウチ、定期購入のデータを見てるんですけど、何を基準に『このユーザーはもう帰ってこない』と判定していいかがわからなくて」

なるほど。離脱定義の話か。

「どういう状況です」

「定期便をね、毎月発送しているんですよ。それで、3ヶ月間買わなかったら『休止中』、6ヶ月買わなかったら『解約』って区分けしてるんですけど」

「その6ヶ月という数字は」

「まあ、一般的だって聞いたので。他の通販企業も6ヶ月ぐらい使ってるって」

そこだ。そこが危ない。

「つよしさんの商品、月1回の定期便ですよね。犬のえさですから、月に1袋、消費するペースなわけだ。で、6ヶ月買わないっていうのは」

つよしが計算する。

「6袋分、買わないってことですか」

「そう。犬、何食べてたんだって話になりませんか」

つよしの顔に違和感が浮かぶ。

「あ、そっか。他社のフード試してるのかもしれん。あるいは、フード自体を変えてる」

「で、その間の顧客行動を見てますか」

「見ていません。ただ『買わなかった』っていう事実だけで、離脱かどうか判定してます」

そこに落とし穴がある。

「一般的な6ヶ月は、食品通販の平均的な離脱期間なんです。だけど、ペットフードと衣料品と化粧品では、お客さんがいなくなる速度が全然違う。化粧品は1.5ヶ月買わなかったら、だいたい流れてる。衣料品はシーズンが関係するから半年平気。ペットフードは消費周期と在庫の関係を見ないと判定できない」

つよしが前のめりになった。

「具体的には」

「つよしさんのお客さんで、2ヶ月間買わない人、いますか」

「あ、います。でも、『中断してる』っていう扱いで、まだ『活動中』のグループに入ってます」

「その2ヶ月、何が起きてるかご存知ですか」

「フード、切り替えてるんですよ。大型犬だと、食事量が多いから、月2回買うお客さんもいるし。在庫が余ってる」

正解に近い。

「で、その間、メールを送ってますか」

「全件配信です。セール案内も、新商品案内も」

「開いてますか」

「開封率は、全体平均で38%ぐらい。ただ、その『中断中』のお客さんのグループを見ると」

つよしがスマホで数字を見ている。

「あ、15%だ」

そこ。

「なぜだと思いますか」

「いや、買う気がないから、見ないのかな」

マスターがカウンターにメモを書く。

・在庫が家にある状態では、新しい情報は不要
・配信周期(週1回)と消費周期(月1)がズレている
・買わない期間も、顧客と見なすかどうかで開封率は変わる

「フードが家に10食分あれば、メールは見ませんよ。不要な情報だから。で、3ヶ月経ったら『離脱』と判定して、除外リストに入れる」

「えっ、でも、そのお客さん、前までずっと買ってくれてた人じゃないですか」

「その通り。で、4ヶ月目に突然、そのお客さんが戻ってくる。在庫が切れたから。でも、ウチからのメールが来なくなってるから、他社で買ってる」

つよしが席に沈む。

「あ、もったいない」

「そう。『離脱定義』をどこに引くかで、施策の効き方が全く変わるんです。6ヶ月っていう一般的な数字は参考値に過ぎない。ペットフードの場合は『消費周期』『配信周期』『顧客の在庫管理』を見なきゃ判定できない」

「その競合と、つよしさんのお客さんは、どこで別れます」

「えっ」

「買う時期です。ウチのお客さんが『あ、そろそろ切れるな』と思った時に、確実に目に入る。それなのに『買わない期間が3ヶ月だから除外します』ってやると、そのお客さんは競合のメールを先に見てるんですよ」

つよしが気づく。

「あ、その3ヶ月の間に、他社に流れてるってことですか」

「離脱定義が長すぎると、その間、接触を切るでしょ。で、その間に消費周期が来て、他社で買う。その方が、顧客は楽。ウチに戻ってくる確率は下がってる」

マスターはメモを指す。

「中央値45日の商材で、180日離脱判定を使うと、擬似アクティブが増えやすい」

つよしが首をかしげる。

「擬似アクティブ?」

「『買ってくれてないけど、顧客リストには残ってる人』。その人たちに配信し続けるから、開封率も低い。クリック率も低い。でも、配信コストは上がる」

「あ、効率悪いんですか」

「うん。で、さらに困ったことが。その『買ってない期間中』に、お客さんは別の行動を起こしてるんです」

つよしが待つ。

「他社でフード買ってるかもしれない。あるいは『このフードは合わないから、やめた』という判定かもしれない。その見分けがつかないまま『6ヶ月買わないから離脱』って判定してる」

「あ、そっか」

「本当の理由は『商品が合わなくなった』かもしれないのに『単に買う周期がズレてるだけ』かもしれない。その両方が同じ『解約』扱いになってますよね」

つよしが身を乗り出す。

「だから、何を基準にするべきなんですか」

マスターはグラスを戻す。

「ペットフードの場合『最後の購入日から計算する』なら、最低でも『消費周期の1.5倍から2倍』を見ないと危ない。月1の商品なら、3ヶ月は『活動中』で見て、4ヶ月から『休止予備軍』。6ヶ月で初めて『可能性高い』。解約判定は、その前に、メールの反応や、配信を試してみた結果を見ないと」

「あ、だから、3ヶ月で『休止中』って区分けしてるんですか」

「そう。ただ、その『休止中』の人たちに何もしていないでしょ」

「あ、そっスね」

「ウチが見ていたケースでは、3ヶ月目に『休止してるお客さん向けの配信』を変えたんです。『また始めるなら、今がお得ですよ』みたいな」

つよしが黙って聞く。

「反応は3割ぐらいあった。つまり、そのお客さんたちは『完全に離脱してない』。『買う周期が来てない』だけ」

「なるほど」

「『離脱定義をどこに引くか』って決めるのは『どの段階で、どんな施策を打つか』を決めることなんです。一般的な6ヶ月は参考値。ウチの消費周期に合わせて、自分たちで引き直す必要があります」

つよしが深呼吸する。

「他社で6ヶ月使ってるからって、それが正解じゃないわけですか」

「食品メーカーにいたじゃないですか。商材によって、顧客の買い方ってぜんぜん違いますよね。サプリと調味料と肉商品。全部6ヶ月?」

つよしが頷く。

「そっか。ウチのペットフード、月1で、3ヶ月分在庫があれば、その間は買わない。当たり前だ」

「そう。で、その3ヶ月の間に『配信を切る』のか『配信を変える』のか『何もしない』のか。その選択で、4ヶ月目の購買行動が変わります」

「今、解約が止まらないって言ってたけど、その解約者の中に『実は消費周期がズレてただけで、在庫が切れたら戻ってくる可能性がある人』が混じってないですか」

つよしの表情が動く。

「あ…本当に、その人たち、何人いるんだろう」

「だから『離脱定義を決める』ってのは『自分たちが何を見落としているか』に気づくプロセスなんです。一般的な基準は参考値。大事なのは『ウチの消費周期』『ウチのお客さんの買い方』『ウチが接触を切るまでの猶予』」

つよしが少し顔を上げた。

「マスター、その『消費周期の1.5倍から2倍』って、どうやって出すんですか」

「購入間隔の分布を見るんです。『最後の購入から次の購入まで』が、平均何日か。その中央値が。で、その中央値の1.5倍を超えたら、だいたい崩れ始める」

「中央値」

「平均じゃなくて、真ん中の値。『100人のお客さんが買うまでの日数』を並べて、50番目の人がいつ買ってるか。その日数」

つよしがメモを取る。

「それを見たら、ウチは何をすべきですか」

「まずは『本当の離脱はいつか』を把握する。今の『6ヶ月』は仮の数字で。その分布を見て『3ヶ月で休止』『6ヶ月で候補』『9ヶ月で本当の離脱』かもしれない。その見直しが先。その上で『3ヶ月から6ヶ月の間に、何ができるか』を考える」

「メール配信の頻度を変えるとか」

「あるいはクーポンを送るとか。あるいは『そろそろ在庫切れますよね』っていう配信をするとか」

つよしが少し楽になった表情になった。

「あ、そういうことですか。『買わない期間も、顧客と見なして、接触を続ける』ってことですね」

「そう。ただし『誤った判定で接触を切り続けるよりは』という前提で。見落としがあって、実は戻ってくる可能性がある人までを除外してたら、施策も打てないし、戻ってきた時の再購入確率も下がります」

つよしがグラスに手を伸ばす。

「今週中に、消費周期の分布、見てみます」

「そう。その上で『本当のウチの離脱定義は何か』を決め直す。一般的な6ヶ月は参考値に過ぎない」

よくある質問

「消費周期」と「離脱判定」は、どう関連していますか?

消費周期が月1なら、3ヶ月買わない=3袋分の在庫がある状態です。この間に離脱と判定してしまうと、在庫が切れるタイミングで接触できず、競合に流れやすくなります。消費周期の1.5倍~2倍を超えるまでは「休止中」として施策を分ける方が効果的です。

複数の商品を買ってるお客さんの場合、離脱定義はどう変わりますか?

最後に「何を」買ったかで判定が分かれます。メイン商品(月1の定期便)が3ヶ月買われなくても、関連商品(おやつなど)を買ってれば、完全離脱ではないかもしれません。全商品の購入間隔を見て、総合的に判定する必要があります。

離脱定義を短くすると、どんなデメリットがありますか?

本来なら戻ってくる顧客を早期に除外してしまい、配信を切ります。その間に競合で買われる確率が上がり、戻ってきた時の再購入確率が下がります。擬似アクティブを増やすのと同じく、全体の効率が悪くなります。

タイトルとURLをコピーしました