新規顧客が初めて購入に至るまでのプロセスと、その過程での各段階の成功率を見ること。「何%がサインアップして、そのうち何%が買うのか」を追うが、その「初回購入」の定義が現場でズレやすい。
まいが来店した時は、いつもより少し疲れた顔をしていた。
「マスター、聞いてもいいですか」
「どうした」
「F1転換分析の話なんですけど……。うちの営業が、ある導入企業から『初回購入の数字が思ってたより低い』って言われてるんです。入れたMAツールで改善するはずだったのに。で、何が起きてるのか確認してほしいって、私に振ってきた」
「なるほど。で、実際どんな数字だった」
「サインアップから初回購入まで、15%なんです。業界平均って25~30%らしいので、やっぱり低いって判定されて。『ツールが悪いんじゃないか』みたいなふんいきになっちゃって」
マスターが水を出しながら聞く。
「その15%ってのは、どの期間で測ってるんだ」
「あ、それが……。導入してから3ヶ月の数字です」
「ふむ。それで終わり」
「え」
「その会社、扱ってる商材は何」
「化粧品のD2Cです。サプリメント系。体感に時間かかるタイプ」
マスターが静かに笑った。
「そこだよ」
「……どこです」
「初回購入の定義が、ズレてる。というか、タイミングがズレてる」
まいは少し首をかしげた。
「3ヶ月の間に、サインアップした人がどのくらい初めて買ったか、って見てるわけでしょ。で、15%だと。でもさ、サプリメントのD2Cって、大体は購入検討の周期が長くないか。『とりあえず登録してみた』『いつか買おうかな』みたいな人、結構いるんじゃ」
「あ……」
「で、3ヶ月で切ると、『これからやろう』って人がまだ検討中のまま。3ヶ月後に買う人も、6ヶ月後に買う人も、『未転換』で数えちゃってる」
まいの表情が変わった。
「初回購入として『3ヶ月以内の購入』か『半年以内の購入』か『それ以上』かで、分母が変わっちゃうってことですか」
「そう。で、その企業、サインアップから初回購入までの『中央値』は何日なんだ」
「あ、見てないです」
「そこだ。15%の数字だけ見ちゃってるから、『低い』って判定されてるんだよ。でもね、もしその企業のサインアップから初回購入までの中央値が90日だったら。3ヶ月で15%ってのは、別におかしくもない」
まいはメモを取り始めた。
「中央値ですか。それをどう使うんですか」
「3ヶ月で15%だったら、その次は『半年で何%に上がるのか』を見る。そこで初めて『アクションが必要か』『そのままでいいのか』が判断できる」
・中央値が30日なら→3ヶ月で15%は低い。改善対象
・中央値が60日なら→3ヶ月で15%は想定通り。6ヶ月で確認
・中央値が90日以上なら→3ヶ月で15%は期待値通り。12ヶ月で最終判定
「ああ、なるほど。『初回購入の定義』っていうのは、『いつまでを初回購入と見なすのか』『その期間は商材の購買周期に合わせるべき』ってことなんですか」
「そう。で、もう一つある」
「もう一つ」
「F1転換分析で見てる『サインアップ』が何なのか、も曖昧になりやすい。メール登録か。会員登録か。初回訪問か。ツールによっては、その定義も企業側で決めてなかったりする」
まいは少し沈んだ。
「それって……導入する時に説明すべき話なんですか」
「そうだな。『あなたのF1転換率を見るには、こういう期間・こういう定義で測りましょう』って、導入時にセットしとかないと。後で『思ってた数字と違う』になる」
「うわ。営業は『ツール入れたら分析できます』ぐらいしか言ってないはずです」
マスターが少し笑った。
「だからさ。ツール入れただけじゃ、数字は見えないんだよ」
まいはその言葉を聞いて、自分の口癖を言われた気がした。
マスターはカウンターにメモを置いた。まいはそれを見ながら、やっと自分たちの営業フローに何が足りなかったのかが少し見えた。
「導入企業に報告する時、『3ヶ月で15%は低い』じゃなくて『3ヶ月で15%、6ヶ月で何%ですか』って聞く。そこから始めるしかないな」
「そうですね。あ、でも……」
「何」
「その企業、多分6ヶ月分のデータ、持ってないと思います」
「だったら、これからのデータで見ればいい。次の3ヶ月を加えて『これから6ヶ月で何%に上がるか』を見る。そこでツールの効果も見える」
まいは一口水を飲んで、少し気が楽になった。「ツール入れただけじゃ変わらない」。自分が何度も言ってきた言葉が、やっと腑に落ちた。
よくある質問
Q:F1転換分析で『初回購入』を決める時、どの期間を基準にすればいい?
商材の購買周期を基準にする。サプリは中央値90日なら6ヶ月、アパレルなら30日なら3ヶ月。3ヶ月で固定するのではなく、その商材の「実際の購買パターン」に合わせることが必要。
Q:複数の期間(3ヶ月・6ヶ月・12ヶ月)で同時に見るべき?
最初は中央値を確認してから、その1.5倍程度の期間を『最終判定期間』として設定する。複数期間で追うと、『どの時点で判定するか』の混乱を招くので、期間を整理することが先。
Q:『サインアップ』の定義がズレていたら、F1転換率はどうなる?
定義によって分母が変わるため、数字の比較ができなくなる。メール登録と会員登録では対象数が変わり、同じ企業でも『40%』『20%』と全く違う数字が出る。導入時に統一しておかないと、後で「この数字は何と何を比べたのか」が曖昧になる。

