つよしが来た。ペットフード通販の経営者で、最近ずっと顔が曇ってる。何かあったのかと思いながら、とりあえず冷たいのを渡した。
「マスター、困ってるんです。去年からリピート施策、めっちゃ強化したんですよ。メール配信の本数も増やして、初回購入後のタイミングも細かく設計して。でも売上、さっぱり伸びない。むしろ配信が多くなって、解約が増えてるんじゃないかって疑ってます」
ああ、これね。よく聞く話だ。リピート施策をしっかり作ってるのに、なぜか売上が動かない。むしろ逆効果になってる。その時、多くの経営者は同じことをしている。配信本数をもっと増やす、コンテンツをもっと良くする、セグメントをもっと細かくする——でも、全部外している。
「ちょっと待って。今のあなたの会員構造って、F1とF2の比率、どうなってます?」
つよしが手帳を見た。「F1が全体の70%ですね。F2は15%。F3以降は15%くらいです」
そこだよ。これが全てだ。
F1が70%の状態で、リピート施策は空振りする
ペットフードみたいな、毎月定期で買う商品は、一見するとリピートが簡単に見える。毎月買われるんだから。でも、その毎月が全部F1初回客だったらどうだろう。ずっと初回客を説得し続けてるのと一緒じゃないかな。
つよしの数字を見ると、月間の新規流入が多いんだろう。広告も回してるだろうし、SNSの流入も入ってる。毎月新しいお客様がどんどん入ってくる。それは悪くない。ただ、その新規客が、どこで離脱してるのか。初回購入後、2回目購入までの間に何人が消えてるのか。
「もう一つ、聞かせてくれ。2回目を買う人の、初回から2回目までの期間。平均どのくらい?」
「あ、ちょっと待ってください。あらためて見てみます」
多くの場合、ここが曖昧なんだ。初回購入から2回目購入までの期間が、実は40日だったのに、リピートのタイミングを30日で設計してる。だから、最初のメールを貰ってから「あ、これ、うちはまだ買う時期じゃないな」と思われて、結局、次の月に別のブランドで買われてる——なんてことが平気で起きてる。
会員構造の「F1が70%」という数字だけ見ると、「新規がいっぱい入ってきてる、いい状態だ」と思う。でも、本当の問題は、その新規が、どのタイミングで、なぜ、どこに消えてるのか。そこを知らずに、配信本数だけ増やしても、空振りするだけだよ。
離脱定義がズレると、施策が全部空気になる
ペットフードの場合、「離脱」って何だろう。初回購入から90日買わなかったら?180日?あるいは、3回購入できなかったら?それとも、1回購入してから月をまたいだら?
ここが決まらないと、リピート施策も、その成果測定も、全部ズレたままになる。
例えば、ペットフードって、お客様が旅行に行くこともある。ストックがある時期もある。定期配送を一時的に止めることもある。その時、あなたのシステムでは、「3ヶ月買わない = 離脱」って判定してたとしよう。でも、実際には、その人は「買う気がある休止客」かもしれない。それなのに、リピート施策から外して、休眠顧客扱いにしちゃってる。
逆もある。初回購入後、2ヶ月で買い直してくれる人が多いなら、3ヶ月で「離脱」と判定するのは遅すぎる。実は、初回から45日が、その人たちの買い替え時期のピークなのに。
現場って、そんなに綺麗じゃないだろ。初回購入から2回目購入までの期間は、人によって違う。ブランドによっても違う。容量によっても違う。ペットの種類によっても違うかもしれない。その全部を、一つの定義で「リピート期間は30日」なんて決めたら、当然、外れる。
つよしは「配信本数を増やしたら、解約が増えた」と言った。でも、実は、その解約してくれてる人たちは、もう既に「その商品を買わない層」だったのかもしれない。あなたの離脱定義がズレてたから、手遅れの人に、ずっとメールを送り続けてたってことだ。
F1が70%なら、そもそも「施策」の前にやることがある
リピート施策を強化する——それは、F2がちゃんと入ってる状態での話だ。F2が15%なら、まずやるべきは、F1からF2への転換率を上げることだよ。
初回購入者の中で、何人が2回目を買ってくれるのか。その数字が決まってなければ、配信いくら工夫しても、分母が小さすぎて動かない。
イメージで言うと、毎月1000人の新規がいる。その中から150人がF2に上がってる。残り850人は消える。その850人に「2回目をお買い求めください」メールを送り続けるのと、何が違うんだろう。
では、どうするのか。まず、既存のF2、つまり、既に2回以上買ってくれてる人たちを見る。その人たちは、初回から2回目までの間に、何をきっかけに「よし、もう一回買おう」って決めたのか。いつ買ったのか。どの商品を選んだのか。その人たちへの配信は、実は、今のあなたの配信より、もっともっと簡潔で、タイミングだけ合わせたシンプルなものかもしれない。
そして同時に、F1の中で、初回購入から45日の間に、何もアクションがない人たちを見る。その人たちが離脱するのか、それとも、何か心理的なブロックがあるのか。商品が合わなかったのか、価格か、配送か。そこを知らずに、「リピート施策が弱い」って思い込んでる。
条件付きの処方箋
- 初回から2回目購入までの実績日数を、全体と商品別で見直す。平均値ではなく、中央値の1.5倍~2.0倍を基準に、その商品の「実際の買い替え期間」を補正する。その期間を過ぎても買わない人が、配信に反応することはまずない
- F1からF2への転換率を上げることを、施策の優先度1位にする。配信本数を増やすより前に、初回から2回目までの期間が正しいか、商品情報は十分か、購入動機は理解できてるか、その3つを見直す
- F2・F3以降の顧客に向けた配信と、F1に向けた配信を、完全に分ける。新規客への「説得」と、リピート客への「通知」は、全く別の設計にする
- 離脱定義を「90日買わない」から「初回~2回目の実績期間+30日」に変える。その期限を過ぎた人に対しては、リピート施策ではなく、休眠復帰施策に切り替える
つよしはしばらく考えてた。「要するに、僕は配信の本数が多いことが、施策を強化したことだと思ってたってことですね」
そういうことだ。多くの場合、「施策の強化」って、配信が増えることだと思われてる。でも、本当の強化は、その人たちが、いつ、どこで、どうしたら2回目を買うのか、その構造を知ることだ。それが分かってれば、配信は多くない。タイミングだけ、正確になるんだよ。
また来いよ。
